政令の改正で使用制限要請の対象施設に飲食店を加えるのは無理筋ではないか

政府は緊急事態宣言に伴う使用制限要請の対象施設に政令の改正により飲食店を加えようとしているようだが、これは無理筋なのではないだろうか。なぜなら、対象となるのは基本的に1000平方メートルを超える施設で、飲食店のほとんどはこの条件を満たさないからだ。1000平方メートル未満の施設も厚生労働大臣の公示により対象にすることができるが、専門家の意見を聞くことが必要とされている。あくまで例外的な措置である。

これを1000平方メートル未満の飲食店もすべて要請対象となるよう政令の改正だけで対応するのは行政による裁量権の濫用にあたるのではないだろうか?そもそも特措法が要請の対象とするのは「多数の者が利用する施設」である。小規模な飲食店をまとめて「多数の者が利用する施設」とするのは強引な解釈ではないだろうか。このような法律の前提に反するような変更は、政令の改正ではなく法改正で行うのが筋ではないか?

新型コロナウイルス対策で、加藤官房長官は、緊急事態宣言に伴って、都道府県知事が特別措置法に基づく施設の使用制限を「要請」できる対象に飲食店を加えるため、政令の改正を検討していることを明らかにしました。

加藤官房長官 施設の使用制限を要請できる対象に飲食店検討 | 新型コロナウイルス | NHKニュース

新型インフルエンザ等対策特別措置法は次のように定めている。

第四十五条
2 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。

そして、この「その他の政令で定める多数の者が利用する施設」は新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令に定められている。

第十一条 法第四十五条第二項の政令で定める多数の者が利用する施設は、次のとおりとする。ただし、第三号から第十三号までに掲げる施設にあっては、その建築物の床面積の合計が千平方メートルを超えるものに限る。
一 学校(第三号に掲げるものを除く。)
二 保育所、介護老人保健施設その他これらに類する通所又は短期間の入所により利用される福祉サービス又は保健医療サービスを提供する施設(通所又は短期間の入所の用に供する部分に限る。)
三 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する大学、同法第百二十四条に規定する専修学校(同法第百二十五条第一項に規定する高等課程を除く。)、同法第百三十四条第一項に規定する各種学校その他これらに類する教育施設
四 劇場、観覧場、映画館又は演芸場
五 集会場又は公会堂
六 展示場
七 百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗(食品、医薬品、医療機器その他衛生用品、再生医療等製品又は燃料その他生活に欠くことができない物品として厚生労働大臣が定めるものの売場を除く。)
八 ホテル又は旅館(集会の用に供する部分に限る。)
九 体育館、水泳場、ボーリング場その他これらに類する運動施設又は遊技場
十 博物館、美術館又は図書館
十一 キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他これらに類する遊興施設
十二 理髪店、質屋、貸衣装屋その他これらに類するサービス業を営む店舗
十三 自動車教習所、学習塾その他これらに類する学習支援業を営む施設
十四 第三号から前号までに掲げる施設であって、その建築物の床面積の合計が千平方メートルを超えないもののうち、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等の発生の状況、動向若しくは原因又は社会状況を踏まえ、新型インフルエンザ等のまん延を防止するため法第四十五条第二項の規定による要請を行うことが特に必要なものとして厚生労働大臣が定めて公示するもの
2 厚生労働大臣は、前項第十四号に掲げる施設を定めようとするときは、あらかじめ、感染症に関する専門的な知識を有する者その他の学識経験者の意見を聴かなければならない。

先の臨時国会は野党が延長を求めたが、自民・公明・維新が反対したため閉会となった。もし臨時国会を延長し特措法の改正に努めていれば、いまこのような無理筋の議論を目にすることもなかっただろう。これもまた自民・公明・維新による失策である。

菅義偉のポスターはなぜ不気味なのか

自民党菅義偉を使った新しいポスターを発表したがなかなかに不気味である。
digital.asahi.com

ポスターに写る菅義偉の目線はカメラを直視せず斜め上を向いている。
この構図は2017年の安倍晋三のポスターを意識したものなのだろうが、こちらでは安倍晋三は口を結んで真剣な表情をしている。
一方で、今回発表されたポスターの菅義偉は、笑顔とも言い切れないが微笑とでも言うべき曖昧な顔だ。
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視線を外して真剣な表情をするポスターは小泉純一郎も作っていた。このような構図のポスターは力強いリーダー像を演出するためのものだろう。
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福田康夫のポスターは笑顔だが、こちらは視線が真正面に向いている。このような構図のポスターは親しみやすさや誠実さを演出するために役立つだろう。
www.shikoku-np.co.jp

菅義偉のイメージ戦略は、「令和おじさん」とか「パンケーキが好物」とかいった親しみやすい人物像を作り上げるためのものだったはずで、この戦略を継続するのなら福田康夫のように正面を向いて笑顔の写真を使ったポスターにしたほうが良いはずだ。
一方で、安倍晋三小泉純一郎のような、強いリーダー像を印象付けたいのであれば、表情はもっと真剣なものにするべきだ。

しかし、今回の菅義偉のポスターは視線を外しながら微笑するという中途半端なものになってしまった。そのせいで、このポスターを見る者は力強いリーダー像も親しみやすさも感じず、ただ菅義偉に無視されているかのような不快な感覚を味わうのである。このポスターが不気味なのはそのせいだろう。

せめてもう少しさわやかな笑顔の写真を使っていれば印象も変わってくるのだろうが、そのような意見を言える人間が菅義偉の周囲にはいないのだろうか。イメージ戦略について誰よりも詳しい電通から官邸に出向している職員は何をしていたのだろうと疑問に思わずにはいられない。

あまりにも世間知らずな「日本CTO協会」の「デジタル庁の創設に向けた提言」

「日本CTO協会」という団体がデジタル庁の創設に向けた提言と題した文章を公開しているのだが、これがあまりにもひどい。

第一の提言である「ソフトウェアコントローラビリティの獲得」の主眼は「私たちは、デジタル庁の長官として、デジタル企業の経営と技術の観点を兼ね備えたCTO人材を民間から招聘するべきだと考えます」にあるのだろう。つまり、「日本CTO協会」の会員にポストを割り当てろという要求にほかならない。

第二の提言「ソフトウェアファーストな法整備」は「現行の法令ファーストではなく、ソフトウェアファーストに思考し」とうたうが、あまりにも幼稚である。法の原則よりソフトウェアの都合を優先しろという主張は夜郎自大というほかない。

第三の提言「Nation as a Service(サービスとしての国家)」にセキュリティやプライバシーへの配慮がまったくないことにも驚かされる。「引っ越しの際に行政の提供するITサービスで住所を変更したら、利用しているさまざまな民間のサービスの住所変更も自動的に行われるとしたら、とても便利でしょう」と言うが、DV被害者など新しい住所を極力知られたくない人にとっては良い迷惑である。

第四の提言「データ駆動とKPI」は「明確な数値目標を持って改善を進めていく必要」を訴えるのだが、この「数値目標」というのが何なのか曖昧としていて意味不明である。ここで思い出されるのは、国立大学が独立法人化され数値目標を追わされた結果、日本の研究力が激しく低下した一連の流れである。とても不穏な提言だと言わざるを得ない。

第五の提言「失敗を許容する文化と透明性」もあまりに世間が見えていない。岡崎市立中央図書館事件、coinhive事件、無限アラート事件など、行政の技術に対する無理解で生じた冤罪は多数あるが、これも単なる「失敗」として許容しなければならないのだろうか?これは民間の例だが、ドコモ口座を通じて30万円の現金を引き出されたとしてもやはりこれを許容しなければならないのだろうか?
「ベータ版というしくみを導入するべき」「最初からユニバーサルサービスを目指してしまうと、本当に改善すべき課題を早めに見つけることができません」と訴えるが、経済的困窮者、視覚障碍者、高齢者などの情報弱者への配慮が一言もないことの異常さを自覚しているのだろうか?
意思決定過程の公開、積極的な情報公開、プライバシー・セキュリティへの配慮といった、失敗が許容されるために最低限必要な素地を整えることが優先されるべきではないだろうか?

このようにして見ると、数値目標の絶対視、弱者への無関心、国民の権利保護への無関心など、全体に経済産業省的、新自由主義的な色合いが強い提言となっていることがわかる。このまま「デジタル庁」が設立されるのだとして、この提言に従い、プライバシーやセキュリティや情報弱者への配慮を軽視した形で進むのであれば、それは国民にとって必ずしも有益な機関にはならないのではないかと思う。